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●詩、小説●
2024-11-14 22:28:27羽衣伝説
作 林柚希
昔、とある湖で漁をしていた、伊香刀美(いかとみ)という男がおりました。
ある日、伊香刀美は、いつものように漁をしていると湖であまり聞かぬ幾人かの女性の声を聞きました。
遠くで漁をしていたので、岸に戻り女性の側に寄ると、女性たちは湖で裸でおりました。
そして、岸辺には、キラキラとかがやくものがありました。
近寄ってみると、それは見事な織物で透けており女性の羽衣のようでした。
伊香刀美は、思わずその羽衣をポケットにしまうと女性を見てみました。
「きゃ。」
女性達は、伊香刀美がウロウロしているのに気づいたようで、慌てて羽衣を着ると天に向かって飛び去ってしまいました。
しかし、最後の一人が羽衣が無いとやはり裸のままウロウロしています。
伊香刀美は、急いで家に帰ると着物を持ち、また羽衣を納屋に隠してまた湖の女性の所に行きました。
伊香刀美「そこの女性、大丈夫?」
女性「私は、衣が無いと出られません。あまり見ないでください。」
伊香刀美「それは失礼したね。これは私の着物だが着るかい?」
女性「私は天の女性です。でも、親切を受けようと思います。」
伊香刀美「そうか、これを受け取ってください。」
天の女性「ありがとうございます。助かります。」
天の女性は、湖から出ると、伊香刀美の着物を受け取りました。
呪文をブツブツと唱えると皮膚から水気が取れ、着物に着替えました。
ぐぅ~っとお腹が鳴った天の女性は困りながら言いました。
天の女性「お腹が空きましたけれど、何か食べ物を分けてもらえますか?」
伊香刀美「僕の家に来ていただけますか?ぜひ一緒に食事をしたいのです。」
粗末な着物とはいえ、とてもきれいな女性のいで立ちに一目ぼれした伊香刀美。
天の女性「ぜひ寄らせてもらえますか。」
伊香刀美「喜んで。家は近いですよ。一緒に行きましょう。」
一緒に歩き始めた伊香刀美は言いました。
伊香刀美「名前が無いと不便です。教えていただいてもいいですか?」
天の女性「私の名前は、瑠衣(るい)と言います。よしなにね。」
伊香刀美「瑠衣さん、僕は伊香刀美と言います。よろしく。」
瑠衣「天に早く帰りたいです。どこに行っちゃったのかしら。私の羽衣。」
伊香刀美「みつかるといいですね。もうすぐ我が家です。」
必死に顔に出ないようにしていましたが、伊香刀美は瑠衣さんに申し訳ないと何度も心の中で謝っていました。瑠衣さんにほれ込んだ伊香刀美はもう後にはひけません。
我が家についた伊香刀美は、さて食事と言っても女性にお出しするような食材は…、と探すほどでもありません。
漁で取った魚とお米、魚を売って手に入れた野菜くらいです。
食材を見るのを止め、ため息をつきながら見ていた伊香刀美ですが、瑠衣はそれを見て私がお料理しましょうと、あっという間に伊香刀美の食材で美味しい手料理を作ってくれました。
楽しい食事に舌鼓を打ちながら、楽しい会話が続きます。
いつしか、瑠衣が酒も呪文で作り、楽しい一夜が続きました。
酔っぱらった伊香刀美が言います。
伊香刀美「なんて楽しい一夜なんだろう。あなたにお礼が言いたい。ありがとう。」
瑠衣「私もお礼を言わせてください。ありがとうございます。」
伊香刀美「今日はこの後どうしますか?」
瑠衣「私に行く当てはありません。本当にどうしたらいいものか。」
伊香刀美「良かったら、このまま泊って行ってください。」
瑠衣「まぁ、私は助かりますけれど、いいのですか?」
伊香刀美「いいんですよ。私は独り身ですしね。どうですか?」
瑠衣「お言葉に甘えて泊まらせていただきます。」
伊香刀美「僕は、ああ、言おうか迷うな。」
瑠衣「なんですか?なんでも言ってください。」
伊香刀美「あなたが好きなんです。もう離れたくない。ぜひずっと一緒にいて欲しい。」
瑠衣「まぁ、私にずっといてほしいんですか?」
伊香刀美「そうです。ぜひ夫婦になって欲しいんです。それともあなたには約束した男がいるのですか?」
瑠衣「私にはそのような男などおりません。ただ驚くばかりで。私でいいんですか?」
伊香刀美「あなたがいいんです。妻になってもらえますか。」
瑠衣「私は。天に住まう父にも母にも何も言っておりません。どうしたらいいのか。」
伊香刀美「両親が問題ではありませんよ。あなたの本心を聞きたいのです。」
瑠衣「まぁ、こんな熱烈な告白を受けたことがありません。とても嬉しくて。」
伊香刀美「それで?」
瑠衣「あなたの告白を受けようと思います。」
伊香刀美「本当ですか!?」
瑠衣「本当です。ぜひそうさせてください。」
伊香刀美と瑠衣はその日とても親密な一夜を過ごせました。
次の日以降毎朝、瑠衣は湖に出かけて羽衣を探す習慣ができました。
伊香刀美は、心の底でいつも詫びを入れておりました。
そんな日々が続いたある日、伊香刀美が漁に出て留守の時、瑠衣は家じゅうを掃除しておりました。
そして、離れの納屋も掃除していたところ、見かけない箱を見つけました。
その箱をみたら、瑠衣のと見られる羽衣が入っていました。
瑠衣は、伊香刀美が隠していたのではないかと思い、怒りに燃えました。
色々考えた末、瑠衣は羽衣を着ると外に出て、そのまま天に飛んで行きました。
そんな時、伊香刀美はキレイな櫛を買って家に早めに帰るところでした。
もう少しで家に帰るところで、家から少し上空に瑠衣が羽衣を着て天に帰るところだったのです。
伊香刀美「瑠衣~!待ってくれ!」
瑠衣「あなた!羽衣をかくしてましたね!」
伊香刀美「許してくれ!僕は、僕はずっと一緒にいたいんだ!」
瑠衣「許せない!私は帰ります!」
伊香刀美「瑠衣~!瑠衣!」
瑠衣「さよなら!」
そうして、瑠衣は、何も残さないまま天に帰っていったのでした。
伊香刀美は、キレイな櫛を大事に握りしめ、泣いていたのでしたとさ。
※よく言われる所の童話「羽衣伝説」を私なりに解釈して、イメージを広げて掲載しています。
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