ブログで趣味でプログラミングからお料理まで呟いています。よろしくー。(^-^)/


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●詩、小説●

2024-08-02 04:31:26

忘れ形見vol.3死んだ俺は

作 林柚希

そして、1ヶ月経った頃だろうか、おじいさんに教わって、近所の神社にある、不思議な泉に出かけて、現世の様子をちょっとずつ見てみた。家族も友達も、少しずつ立ち直っていっているようだけれど、彼女だった葵がいつまでたっても立ち直れないようだった。
大丈夫だろうか。俺も、淡泊なのか、死んだのには割と順応してしまっていたけれど、天国での暮らし、というものに慣れるのにちょっとかかって現世での家族や友達や彼女の事を考える暇がなかった。でも、生活もわかってきて落ち着いた時、現世での皆が気になったのだった。現世を泉からちょっとずつ覗くと、明らかに葵だけとり残されている。
そのうち、毎日泉でお祈りするようになった。
「一度でいい、彼女に逢いたい」と。
それから、また数ヶ月経った頃、神様が俺の前にあらわれた。
「彼女がそんなに気になるかの?」
「はい、彼女に逢いたいんです」
「あわよくば、生き返りたいかの?」
「いえ、それは…。もう諦めているけれど、彼女を元気づけてあげたいんです。
見ていられない程落ち込んでしまっているので…。」
「それなら、一度だけ、叶えてしんぜよう。その代り、夢の中と彼女は思うだろうがの。」
「それでも、いいです!逢わせてくださいっ。」
「ようわかった。目をつぶって彼女の事を思い浮かべなされ。」
葵…。もうすぐ逢いに行くからな!待ってろ。
ふっと、脳裏に葵の部屋が思い浮かんだ。彼女は、ベッドに寝ながら、アルバムを読んでいた。ふいっと、体が吸い寄せられる感覚がすると、もう彼女の目の前にいた。

「よ!」
照れくさくて、久しぶりの挨拶をする。
「ゆ、勇人!?」
葵は、かなりびっくりしている様子だ。
「そうだよ、元気ないな、お前」
「本物?」
「本物だよ~。神様にお願いして出てきちゃった。」
「出てきちゃった、って。化けて出てきたの?」葵は呆れただろうか?
「違うよ~。化けてって言うなよ~。」
「勇人~。私、逢いたかったよ~。」
涙を流して、俺に抱きついてきたけれど、スカスカと感触がない。俺、本当に幽霊なんだな~。心の底で少し悲しくなる。
「ま、俺、幽霊だからなっ。一応」ちょっと、明るいフリをして言う。
「う、うん。そうだね。」
「怖くないのか?」
「全然怖くないよ。」正直、ホッとした。
「勇人、ずーっとずーっと、一緒にいてもらえないの?」すごく懇願してくる。この目線に弱いんだよな。俺も、一瞬生き返りたいと思ったけれど、それは無理な話だ。仕方ない。
「それは、駄目だって、言われちゃったんだ。」
「勇人、これ。」べっこうのメガネを見せてくる。
「これを勇人だと思って大事にしていたんだよ。」葵はまた、涙を流している。
「おっ、おい、泣くなって。」
「うん。」葵は涙を拭いた。困るなぁ。涙を拭いてやることもできない。
「勇人、このメガネに宿ることはできないの?」
「無理だよ~。」そんなことできても、悲しくなるだけだぞ。
「そうだよね。」なんだか、納得したようだ。
「それより、お前、俺にこだわってないで、前見て人生歩けよ。見守っているからな。」
そうそう、この一言が言いたかったんだ。
「そんな急に無理だよ。一人じゃ寂しいし。」
仕方ないから教えるか。「お前の事を見ている存在は他にもいるんだぞ。」
「だって、そんな存在いないもん。」
「それは、お前が気づいてないだけだって。お前、意外とモテてたぞ。」葵が他の奴と歩いていたら俺は…。でも!
「ヤダ。勇人がいい。」
しょうがないなぁ。嬉しかったけれど、もう葵とは一緒に過ごせない。俺はもうここで踏ん切りがついた。
「しょうがないなぁ。いずれまた、俺も転生っての、するから。そしたら違う形で会うかもな。」そうだ、葵の近所のガキんちょに転生して、びっくりさせるのも面白いかも。
「そうなの?」
「ああ、そうだよ。だからいい事もたくさん待ってるから、立ち直って幸せになれよな。」
葵はまた、涙を流しながら、「うん、そうだね…。」少し落ち着いたようだ。
葵は涙をぬぐいながら、
「私、勇人に出逢えてよかったと、思ったよ。だからまたどこかで出会えるといいね。勇人、大好きだったよ」
「俺も、お前の事が大好きだったよ。」なんだか、振られた気分だ。
「うん、ありがと。」
「俺も、ありがとう。」でも、おかげで、俺も心にケリを付けられた気がする。
俺は、頭をなでる仕草をしながら、「じゃ、俺、行くからな。」
「さよなら、勇人」彼女はそのまま、気を失って眠り込んでしまった。

俺も、気が付くと天上界の神社の泉に立っていた。葵…。いつも楽しかったよ。
富士山までよく遊びに行ったの、忘れていないからな。また、どこかで会おうな。
それまで、俺も頑張るから。
「神様、ありがとうございました。」
「これで、気が済んだかの?」
「はい、たぶん…。後は彼女次第なんですが。」
「彼女は大丈夫じゃと思うよ。お前さんも過去ばかりにふりまわされんように、先を見つめなされや。」神様はそう言うと、ふっと消えてしまった。
いけね、おじいちゃんが家で待ってる。確か、饅頭食いたいって言ってたっけ。俺も泉をあとにしたのだった。


この作品も、とある編集部へ送った投稿作品です。
以前に送った作品は、規定枚数を超えていたので、
今回は超えないように、四苦八苦して書いた作品です。
でも、選外にもれてしまいました。
この先も続きますので、楽しみにしていてください。

物語の初めは、こちらになります。
忘れ形見 vol.1 亡くなった彼氏

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.2 その時俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.3 死んだ俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.4 その後の俺

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.5 その後の俺2

物語の最後は、こちらになります。
忘れ形見 vol.6 その後の私達
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2024-08-02 04:12:31

忘れ形見vol.2その時俺は

作 林柚希

俺はその時、物凄く急いでいた。ふいっと何も用意をせずに富士山の朝日が見たくて朝方近くにぶっとばして、見に行ったのだった。でも、今日は平日だったから急いで戻らなくちゃ学校に遅れる。ヤバイ。急いで、バイクにまたがり、エンジンをふかして道を急いだ。それが、そもそもの間違いだった。寝不足で、頭も痛かったせいもあったけれど、ハンドル操作を誤ってしまい、「しまった」とつぶやいた時は事故っていた。
しばらくすると、川のど真ん中だった。
あれ?俺は家に帰ろうとしていたんじゃなかったっけ?まぁ、いいか。すると「ゆうと~、ゆうと~」と、声が聴こえる。川向うは靄がかかってよく見えない。誰だろ?俺を呼ぶのは。

とりあえず、川を渡ってみよう。
川の中ほどで、ようやく人がおぼろげながら見えてきた。
「勇人。こっちきちゃイカンよ~」と声を出しているのはあれ?おじいちゃんじゃんか!
急いで渡りきると「よ!おじいちゃん。元気か?」と声をかけた。
おじいちゃんは、がっくりと肩を落として、
「しまった。声をかけるべきじゃなかったの~」と悲しそうな声だ。
そういえば。「おじいちゃん、亡くなってたよな?元気そうだけど。」
「違うんじゃよ。ここは三途の川じゃ。わしは亡くなっているし、勇人、お前さんも亡くなってしもうとるんよ。」
「何言ってるんだよ、じいちゃん!俺ピンピンしているよ?」
「いや、三途の川を渡ってしまうとのう、死んでしまうんよ。正確には、バイクっちゅうもので交通事故でのう、亡くなったんよ。」
「いやだなぁ、脅かさないでくれよ。夢だろ?どうせ。」
「何度も言っとるがのう、お前さんは死んでしもうたんよ。この先に、地獄の門が続いて閻魔大王様がおるで、話を聞けば分かるじゃろうて。」
「う、嘘だろ?おじいちゃん」現実なのか?これ。
「混乱しとるようだがの、とりあえず、渡ってしまったものは仕方ないのじゃ。先へ行きなされ。」
「嘘だ。絶対夢だ。」バシバシ頬を叩く。夢なら覚めてくれ!頼む。暫く、自分にデコピンしたり痛いことを散々やったけれど、変わらない。確かに、俺は富士山から家に戻る途中だったはずだ。
おじいちゃんが同情して「途中まで、一緒につきそうで、がっかりしなさんなや。」
「おじいちゃん、川を戻っちゃいけないのか?」
「いけない決まりになっておるんよ。だから可哀そうじゃが諦めなされ。」

俺。死んじまったんだ。体に力が入らない。本当なんだろうか。おじいちゃんがいるだけ、まだマシなのかもしれない。一緒に付き添ってくれて、ちょっとした旅気分だった。
生前のおじいちゃんは、まだ子供の頃によく色んな遊びをしてくれてたけれど、病気で亡くなってしまったんだっけ。
「あの時が懐かしいのう。おばあさんは元気かのう?」
「おばあちゃん?元気に過ごしてたと思うよ。最近会ってなかったけれど。」
「おばあさんが勇人のお葬式にでるんじゃろうのう、あいや、その…すまん。」
「いいんだよ、おじいちゃん。付き添ってくれるだけありがたいんだからさ。」
やがて、大きな門の前に来ると、おじいちゃんが、「わしが付き添えるのはここまでじゃよ。まぁ勇人ならまた会えるだろうて。」
「ありがとう、おじいちゃん。」
「また会えるだで、心配しなさんな。」
「うん、行ってくる!」
門をくぐると、二人の巨大な仁王像のような存在が番をしていて、ちょっとぎょっとする。
あとは、普通に人が通っているだけなのだが。やがて、赤い絨毯の先に、巨大な机と鏡があり、人が列をなして順番に呼ばれるのを待っているようだ。俺も、列に加わって、順番を待つ。巨大な建物で、巨大な机の上に、金の地に黒い文字で「閻魔大王」と書いてある。
真っ赤な顔に、豊かなひげを蓄えて、恐ろしげだが、俺は特に怖いとは思わなかった。
「次!」
お、俺の番だ。巨大な机の前に置かれた椅子に座り、とりあえず待つ。
「ほぉぉ、お前さんは、生前特に悪いことはしてないようじゃの」
閻魔大王様に言われて「そうですか?俺友達にイタズラしてポケットにカエル入れたりとかしましたけど。」
なんだか不思議なんだが、目の前の鏡にこれまでの生前の出来事が次々に現れる。
「ふぉっふぉっ。そんな事は幼い頃の小さないたずらじゃよ。そのくらいで、地獄に落としたりはせんよ。そうそう、三途の川でおじいさんが待っておったろ。あれものう、本当はいけんのじゃが、お前さんを亡くならならないようにしたかったようじゃの~。善行を積んだお人故、神様が叶えたのじゃろうがのう。」
そうだったんだ。俺は、せっかくのチャンスを、…フイにしちまったんだろうか。
「それで、俺は今後どうしたらいいんですか?」
「お前さんは天国行きじゃよ。あっちの金のドアを通りなされ。」
「はぁ、ありがとうございます。」
ぺこっと一礼して、ドアをくぐったのだった。
それから、しばらくして、またおじいちゃんに出会うことが出来て、天国での暮らし方を教わったのだった。天国も現世と同じように、家に住んで学校に通ったり、仕事が出来るのだけど仕事はちょっと変わっているものもあるらしい。なんせ、現金も稼がないとそれなりの生活は難しいようだった。


この作品も、とある編集部へ送った投稿作品です。
以前に送った作品は、規定枚数を超えていたので、
今回は超えないように、四苦八苦して書いた作品です。
でも、選外にもれてしまいました。
この先も続きますので、楽しみにしていてください。

物語の初めは、こちらになります。
忘れ形見 vol.1 亡くなった彼氏

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.2 その時俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.3 死んだ俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.4 その後の俺

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.5 その後の俺2

物語の最後は、こちらになります。
忘れ形見 vol.6 その後の私達
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2024-08-02 04:02:22

忘れ形見vol.6その後の私達

作 林柚希

あ、勇人が来た。
優斗だったね。
いいよ、勇人で。
やっと二人そろったね。
この時を待っていたの。
私の人生は充実していたけれど、やっぱり勇人がいなくて寂しかった。
俺も必死に祈って優斗として転生したけれど、あまり意味はなかったな。

ううん、違うよ。すごく嬉しかった。出逢えて、自分の気持ちに決着がつけられた。
でもね、死の淵に立った時、また勇人に逢いたいなぁって思い出したんだよ。

そうか。嬉しいな。俺もそうだったよ。優斗の人生も充実していたけれど、死に際に、今度こそ葵と一緒になりたいと思ったんだ。

嬉しい。ありがとう。今度こそ、同じ年で転生して出逢いたいね。

そう、今度は俺、できれば隣同士で生まれたいな。

今度こそ。
今度こそ…。

神様は贅沢なお願いって言うかな。
神様ならきっと聞き届けてくれるさ。

今も持ってる?あのメガネ。
持っているよ。ほら、これ。
俺はね、それ一番似合っていたけどそういうの、照れ臭かったから渡したんだ。
そうだっけ。
もう、ちゃんと言ったろ~。
まぁまぁ。このメガネに向かってお祈りをしようよ。
そうだね。俺たちにとってピッタリだ。

メガネに向かって、2人がお祈りをするとピカっと光りだした。メガネはすーっと浮き上がるとふっと消えた。メガネは神様の元に届いたようだった。

そなたたちの願い、聞き届けた。
きっと願いに沿うようになるじゃろうて。二人とも、よう頑張ったの。

ありがとうございます、神様。
きっと今度は、一緒だね。

数年後―。
「葵ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「勇人ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「二人とも、ろうそくの火を吹き消して。」
「はーいママ。」
「はーいおかあさん。」

「ふぅ~。」
「ママ、葵、その場所のケーキ食べたい。チョコも忘れないでね。」
「おかあさん、おれも同じ場所がいいな。葵ちゃん、チョコ半分こしようよ。」
「もう!勇人ちゃんすぐマネっこするんだから~。」

ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、仲良うやっておるようじゃな。
これで、ええじゃろうて。神様業も肩がこるの。コキコキ。この二人もちゃんと願いどおり転生できたようじゃし、大丈夫じゃろうて。さて、別の場所を視察しようかの。


この作品も、とある編集部へ送った投稿作品です。
以前に送った作品は、規定枚数を超えていたので、
今回は超えないように、四苦八苦して書いた作品です。
でも、選外にもれてしまいました。
お読みいただき、ありがとうございました。

物語の初めは、こちらになります。
忘れ形見 vol.1 亡くなった彼氏

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忘れ形見 vol.2 その時俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.3 死んだ俺は

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2024-08-02 03:49:55

忘れ形見vol.4その後の俺

作 林柚希

いつの間にか、俺は魂になっていた。場所は閻魔大王様の前。
鏡に、岩としての生が映し出されている。
「また、お前さんは順当に岩としての生を終えたが、次の生はどうしたいのかの?」
そうだ!急に思い出した!葵の近くで転生したかったんだ。
「葵の側に転生したいんです。」
「葵さんの側、のう。」
葵さんはのう、もうお前さんの事はあらかた落ち着いて穏やかな毎日を過ごしているんよ?
蒸し返すような事は言わん方がいいと思うがの。」
「それは、その時考えます。だから一生懸命お願いします。また葵の側で転生させてください!」
「どちらにしろのう、葵さんとは20歳以上、年齢差が出ると思うが、それでもいいかの?
それからのう、ひょっとしたら同じ女性として、生まれるかもしれんがそれでも、かの?」
「うっ…。それは…。」
一瞬考えたけど「それでも、かまいません。転生させてください。」

大魔王様もひげを触りながら「お前さんの気持ちはようわかった。あとは必死に祈って毎日天国でしばらく過ごしなされ。」
「さぁ、金のドアをくぐりなされや。」
金のドアをくぐって、またしばらくおじいちゃんと天国で暮らすことになったのだった。


◇【忘れ形見vol.5その後の俺2】
作 林柚希

「お母さん、行ってきまーす!」
「ゆうと、気をつけて行ってらっしゃい」
ぼく、ゆうと。優斗ってかくんだ。かっこいいでしょ?実は誰にもナイショにしているけど、生まれる前の記憶をもっているんだ~。一つ前はただの岩だった。その前は人間。
しかも勇人って書いて「ゆうと」って読む名前の人間だった。その時に、付きあっていた葵って人を探している。神様のおかげで、近くに生まれることができたみたいだけどなかなか会うことが叶わない。でも、いつか、きっと!
とりあえず、公園に行こうっと。
やっと公園の側にやって来て慌てて走る。友達はもう皆集まっているみたいだ。
走ると公園の入り口で、ばしっと人とぶつかってしまった。
「ぼうや、大丈夫?」
あれ?懐かしい声だ。記憶よりちょっと低いかもしれないけれど。
「ぼく、大丈夫です。お姉さんこそ大丈夫?」
「私は大丈夫よ。あら、膝に血が…。」
しゃがんで、かばんからハンカチを出して膝をぽんぽん拭いてくれる。
その時カチャッと音がして何かを落とした。
「あ、メガネが…。」
それはべっこうのメガネだった。このメガネは。ひょっとして…。あれ、葵…?
「あおい?」
「あれ?ぼうや、私の名前を知っているの?」
とっさに「ハンカチに名前書いてあるよ。」
「あら。賢いわね~。」
「お姉さん、メガネ落したよ。」そう言って、ベッコウのメガネを渡した。
「あ、これね、ありがとう。」メガネを受取る葵。懐かしそうな顔をしている。
「違うの、僕ね、ゆうとって言うんだよ。」
「ゆうと…?」
葵は、ちょっと焦点の合わない目線になった。
「懐かしい名前だわね。ぼうや、いい名前だね。」
「違うの。聞いて、葵お姉さん、ぼく交通事故で亡くなった勇人って人の生まれ変わりだよ。」
さすがにびっくりした目をして「あの勇人?まさか!?」
「そのメガネ。知っているよ。昔の恋人の勇人のメガネでしょ?」
「お姉さんをだましたりしないよ?ぼく勇人。ずっとお姉さんの事さがしてたよ。」
じーっと僕を観た後、ちょっと空を見て、葵は
「ちょっと暑い夏の日だから、夢でも見ているのかしら…?」
「夢じゃないよ。お姉さん、葵って呼んでいい?」
「葵さん、にしといて…。ちょっと混乱してしまうね。勇人なのね?」
「そうだよ、葵さん。ぼく今もゆうとって名前なんだよ」
「今も…?」
「そう、優斗って書くんだ。かっこいいでしょ?」地面に書いてにこっと笑った。
「そう、本当に転生したんだね。あれは夢じゃなっ…。」
ちょっと笑いながら泣きそうな顔をしている。
「ごめんなさい、葵さん、知らない方が良かった?」慌てて謝る。
「そんなことないよ、ありがとう、ずっと心配してくれてたんだよね?」
「うん、そう。今は幸せ?」
「毎日忙しいけど、幸せにしているよ。あれからね、私の事が心配でって面倒を見てくれる人がいたりしてね、勇人以外の人にも付きあったりしたの。でも、どこかで勇人に申し訳なくて、なかなか好きになれなかった。それでもね、今は大人になって会社で働く毎日だよ。」
「ぼくはね、必死に願ったんだよ。葵さんの近くに転生できますように、って。
でもね、葵さんに会って満足したよ。今が幸せならいいんだ。」
「勇人…。」
「私も会ってよかった。心のトゲが取れた気がする。ありがとう優斗くん。
そのハンカチ、あげるから家に帰ってちゃんと手当してね。」
「さよなら葵さん。」
「さよなら優斗くん。」
もう、十分。これでよかったんだ。もう、僕は勇人だった頃には戻れないのだから、これでよかったんだ。今の年齢には、不似合いな感慨に浸りながら、家に帰ったのだった。


この作品も、とある編集部へ送った投稿作品です。
以前に送った作品は、規定枚数を超えていたので、
今回は超えないように、四苦八苦して書いた作品です。
でも、選外にもれてしまいました。
この先も続きますので、楽しみにしていてください。

物語の初めは、こちらになります。
忘れ形見 vol.1 亡くなった彼氏

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.2 その時俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.3 死んだ俺は

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.4 その後の俺

物語の続きは、こちらになります。
忘れ形見 vol.5 その後の俺2

物語の最後は、こちらになります。
忘れ形見 vol.6 その後の私達
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