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Editer:snow Date:2025-05-01 16:07

嘘つきと本音



作 林柚希

私は嘘つきって妖怪。
ただただ、嘘をつくだけ。
それで困った存在を見て楽しんで生きている。

でも、最近ネタも尽きてしまった。
昭和の御世も変わったとかで、
現代の日本というのは、よくわからない。

戦後の生まれとしては、
景気のいい生活をしている人間を見て、
騙して遊ぶのが楽しくてしょうがなかったけど、
最近は、とんとそんな存在を見ない。

今日も騙す相手を探してあちこち彷徨っている。
あ。
ここは病院だな。
どれ、ちょっと寄ってみようかな。


「あかりちゃん。」
「違うよ、あかりじゃなくてあけるだよ。」
「ごめんなさいね、間違ったりして。」
「いいよ、皆、間違うから。」
「あら、コール音が、…ちょっと待っててね。」
バタバタと看護師が離れていった。

「お姉さん、どうしたの?」
(あれ?私の姿視えるんだ)
「どうもしないよ、何をしているの?」
「お散歩の途中だよ。」

(ちょっとからかおうかしら)
にこっと笑って、
「どれ、あ。」
車いすに座った男の子は、椅子についたテーブルの四角い紙を見て、

「それ、折り紙でしょ?何か折ってあげるよ。」
「え、いいよ~。」
「まぁまぁ、いいから、いいから。」

舟を折って、
「ちょっと端を持って。」
「こう?」

「パタっと変えると」
折り紙を折りかえす。

「あ、舟の方向が変わった!
凄いね、お姉さん。」
「そんなことないよ、あとはこれ、どう?」

パタパタと折って。
「はい、出来上がり!」

「これは…、兜だね?へぇぇ色々折れるんだね。」
「ちょっと凄いでしょ?」
「ちょっとじゃないよ。すごく凄い!
ありがとうお姉さん。」

「いやいや、いいんだって。」
何だろ?いつもの嘘が出ないのに気持ちがいい。
ま、いいか。

「僕、折り紙っていうと鶴しか知らなかったんだ。」
「そうか~、色々あるんだよ。」

さっきの看護師がこっちに向かってくる。
ちょっとやばいかも。

「用事があるから、またね。」
「お姉さん、また来てね。」
「おっけ!」
私がその場から去ると、入れ違いに看護婦が戻った。

「あかりちゃん、お待たせ。」
「だから、あけるだって!」
「そ、そうだった。ごめんなさいね。」
「いいよ、しょうがないなぁ。」

「あら、その兜、どうしたの?」
「うん、折ってもらったんだ。」
「そうなの?よかったわねぇ。」
「そろそろ、戻りましょうか?」
「もうちょっと外にいたいな。」
「だめですよ、そろそろ寒くなるから。」
「ちぇ、ケチ。」
車いすが押されて、病院内に戻って行った。

最近の私はヤケが回ったのか、あの男の子が気になってしょうがない。
たまに顔を出しては、折り紙をして遊んでいたのだが、
お母さんの親戚と嘘をついて、ちょっとスっとした。
あけるくんはちょっと驚いたようだったけど、
まぁ、いい。

でも、何度目かの出会いで男の子は不治の病なのだと知った。
心臓病なのだと。
私は動揺が隠せなかった。
どうしよう。
ホントの事を言って最後に死出の旅に送り出そうか?
いや、何を言っているんだ私は。
嘘つきじゃないか!

嘘をついて何が悪い。
でも。
何かが引っかかる。
自分にも何かできないか?

一度、久しぶりに自分の住処に戻った。
埃をかぶった家の中で、
本を読み漁ってみる。
「嘘のつき方」
「嘘つきとは」

違う。こんなんじゃない。
「嘘つきの魔法」

なつかしいな、絵本だっけ?
ページをめくると、最後に記憶にないページがあった。

嘘つきが本当のことを言うと、奇跡が起こる。

あれ?
こんな結末だっけ。
そして最後の一言にげっとなる。

代わりに嘘つきの命運が尽きる。

冗談じゃない!
私はまだまだ、生きていたいんだ。
冗談じゃない。
だけど、気になる。

「嘘つきとは」の本を手に取ると、びっくりしたことに
似たような記述がある。
100万分の1の確率で、らしいが。

とりあえず、またあのあけるくんに会ってみよう。

次の日、またあの病院の前に立ってみた。

あけるくんの病室にそっと忍び込む。
なぜだか苦しそうにしているのに、ナースコールも出来ないでいる!
これは、マズいんじゃないか?
アセるが。

あけるくんが目を開けた。
「あ、お姉さん。」
「大丈夫か、あけるくん。」

「大丈夫だよ。」
「顔が真っ青じゃないか。」
何言ってんだ、いつもの嘘で安心させればいいんだ。

「きっと、神様だって奇跡を起こすよ。」
「私だってついてるよ。」

「いいよ、お姉さんそんなこと言わなくても。」
「なんでそんなこと言うんだよ!」

「僕、もう一回、発作が起きたら、もう駄目だって言われてたんだ。
だから…、静かに生活していたんだけどね。
もう、…だめかも。」

私は混乱した。
何でもいい、何かできないか。

そうだ。
私の命がどうなるかわからないけど覚悟の上。
これにしがみつくしかない!

「あのな、あけるくん私はね、お母さんの親戚じゃないんだ。」
「そ、…そうなの?誰なの?」
「わ、私は、嘘つきって妖怪なのさ。」
「妖怪はわからないけど、お姉さんが普通じゃないのは知っていたよ。」
これには、かなりびっくりした!

「そ、そうなの?」
「だって、お姉さんには影がないんだもん。
でも、死神じゃなくてよかった。」
「何、いってるんだよ。」
「お姉さんは嘘つきじゃないよ、だってほんとのこと、言ったんでしょ?」
「私は、…だって親戚のふりだってしたし。」

「そんな人は色々いたよ。
僕の家、お金持ちなんだ。
だから、嘘ついて、近づいてくる人、いっぱいじゃないけど、いたよ。」

「僕、ぼく…。」
もうしゃべるのも無理のようだ。

神様、神様。
しがない嘘つきだけど、
私の命を!私の命をどうか、どうかあけるくんにあげてください。
一生に一度のお願いです!

なぜか、点滴が途中で止まり、
音が一切しなくなる。
天上から光が満ち溢れ、一人の正真正銘、神様が降り立った。

「お前さんかの?呼び出したのは。」

「ほ、ほんとに神様ですか?」
「そうじゃよ。お前さんの必死の願いを聞き届けに来たんじゃよ。」

「お願いします!私の命はなくなってもいい!!
どうか、この男の子に私の命をあげてくださいませんか。」

「そんなことしたら、もう嘘をつけなくなるが、それでもいいのかの?」

それには、げっと思ったけど、一瞬でそれも消える。
「かまいません、どうか、どうか私の願いを聞き届けてください。」


「よかろう。お前さんの願いは聞き届けた。」


光が消えると、今度は病室ではなくなっていた。

巨大な門の前に立っていた。
そのまま通り抜ける。

木槌をたたく音と共に、「次!」という声が聞こえる。
巨大な広間に巨大な机。
赤いじゅうたんの上を順番に歩いていくと。

「なんじゃ珍しいのう、嘘つきか。」
「そうです、嘘つきですがあなたは?」
「わしか、わしは閻魔大王じゃが、お前さんは三途の川を渡ってこなかったようじゃの?」

「ここは地獄なんですね。
知らなかったんです。
気づいたら門の前に立っていましたから。」

生前を映すという珍しい鏡をのぞきこみながら、
「なるほのう
珍しいのう、人間に命をあげたとはのう。」

「あけるくんは!…あの男の子は助かったんですか?」
「そうじゃよ、ちょっと見なされ。」

鏡を少し見せてもらうと
病院の出入り口の前で、あけるくんが花束を受け取って、照れくさそうに笑っていたのだった。

「閻魔大王様、彼は助かったんですね。」
「そうじゃよ、お前さんのおかげでのう
本当は死にゆく運命じゃったと思ったが、さて…。」

「嘘つきとは因果な妖怪でのう。
正直言うと、世の中に必要のない存在でのう。
お前さんが来て、こういうのもなんじゃが大歓迎じゃよ。
生前の嘘も小嘘ばかりで大したことないしのう。
そうじゃの、まずはトレイにでもなりなされや。」

「トレイですか?トイレじゃなく。」

「お前さん、トイレにないたいんかいな?」
「いえ、そんなことないんですが…。」

「それで、生前を思い出しつつ、次の生で何に生まれ変わりたいか考えなされ。」
「え!?それでいいんですか?痛い罰が待っているという噂を聞いたんですが。」
「まぁ、そういうところもあるのう。」

気がつくと、すでにひとつのピンク色のトレイになっていた!
「鬼さんや、持って行ってくだされ。」
「はーい。」

鬼さんは、トレイを持って、また閻魔大王様は「はい、次!」と次の裁決を下していたのだった。

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