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●詩、小説●

2024-05-05 00:30:19

ゆかり



作 林柚希

私はゆかり
紫と書いてゆかり
紫色のカーネーションなの
カーネーションの世界では珍しい部類なのよ

人間の間のイベントとやらで「母の日」で
贈られた花なの
だけどまだ花先が少し開き始めたばかりで
そんなに咲いてはいない
毎日、人間の「お母さん」が
水を撒いてくれるけど
いつまで私の命は持つのだろう

昼間は「ベランダ」と呼ばれるところで
いるのだけれど、夜は家の中に運ばれる
花の間の噂では「破格の扱い」なのだそう
でも、だから昼間しか逢えないある存在がいるのです

ぶ~んと、いう音でよく見てみたら
虫が近くに飛んできた
「やぁ」
声をかけられて戸惑っていたら、
「珍しいね、君」
「そうかしら?」
「あ、俺ミツバチなんだ」
「私はカーネーションよ」
「君から蜜をとってもいいかな?」
「蜜!?そんなのあるのかな」
「まぁ、いいや。これからもよろしくね!」
ぶ~んと他の花に飛んで行ってしまった


次の日
「やぁ」
「あ、いらっしゃい」
「もうちょっとで咲きそうだね」
「そうそう、私はゆかりって名前があるのよ」
「そうなんだ。俺はミツオ」
ゆかり「よろしくね」
ミツオ「よろしく」
ミツオ「明日もまた来るよ」
ゆかり「また来てね」


次の日
ミツオ「やぁ」
ゆかり「こんにちは」
ミツオ「だいぶん、咲いてきたね」
ゆかり「きれいかな?」
ミツオ「うん、キレイだと思うよ」
ゆかり「私はあなたが羨ましいな」
ミツオ「え!?なんで?」
ゆかり「自由に飛べる羽を持っているから」
ミツオ「でも、しがない働きバチなんだぜ?」
ゆかり「ハタラキバチ?」
ミツオ「そう。ずっとずーーーーっと蜜を集め続けなければならないんだ」
ゆかり「でも、やっぱり自由に動けるって羨ましい。私はここにいるだけなんだから」
ミツオ「俺はキレイに咲ける花って羨ましいけどな。人間に大切にされるだろ?」
ゆかり「大切にされているけれど、花が咲き終わったらどうなるか…」
ミツオ「それは俺も同じなんだ。1年生きられないんだぜ、俺たちは」
ゆかり「そうか、同じなんだね」
ミツオ「同じだな」
お互い、はぁ~とため息をついて

ゆかり「でも、おしゃべりできて私は嬉しい」
ミツオ「俺も嬉しいんだ」
ゆかり「また来てね」
ミツオ「おう!」


次の日
ミツオ「やぁ」
ゆかり「こんにちは」
ミツオ「また来ちゃった」
ゆかり「よかった、来てくれて」
ミツオ「コッソリと来てるんだ。だからナイショにしてくれな」
ゆかり「そうなんだ。わかったナイショにしとくね」
ミツオ「まぁ、…まわりの花達にはバレてるけどな」
ゆかり「そりゃ、そうだね」
二人でぷ~っと吹いて

ゆかり「今日もいい天気」
ミツオ「飛んでて気持ちがいいよ」
ゆかり「あなたの羽、とてもキレイね」
ミツオ「そうか?誰にもホメられたことないけどな」
ミツオ「お前の花びらもキレイだぞ。水が宝石みたいについてて」
ゆかり「ありがとう。私もあなたにホメてもらうのが一番嬉しい」
ミツオ「そう言われると照れるな」
二人で今度は照れ笑い


次の日
昼ごろ、寝坊した「お母さん」がゆかりをベランダのいつもの場所に置くと
そこには!

ゆかり「ミツオ!ミツオ!」
ゆかりのそばにはミツオが倒れていたのでした

ゆかり「嘘でしょう?昨日まであんなに元気だったのに」
ゆかり「ミツオ!ミツオ!」

ミツオが気がついて
ミツオ「う…。」
ゆかり「大丈夫!?ミツオ?」
ミツオ「大したことない、…って言いたいけど。アチチチ」
ゆかり「どうしたの?何があったの?」
ミツオ「たまたま通りがかった、スズメバチって奴に張り倒されてさ、イチチ」
ゆかり「そうだったんだ。仲間はいなかったの?」
ミツオ「仲間は、…皆逃げて行ったんだ」
ゆかり「ヒドイっ。なんで?いつもミツオが蜜を届けているのに…」
ミツオ「仕方がないんだ。ガタイが…体の大きさが違いすぎるんだよ」
ゆかり「でも…でも。私の蜜は食べられないの?元気にならない?」
ミツオ「ホントはいけないんだけど…。ちょっともらうな」
ゆかり「うん、食べて、食べて!!」
ミツオはよろよろとゆかりにたどり着いて、蜜をひと舐めした後、
そのまま「ベランダ」の端に落ちていきました

ゆかり「ミツオ!ミツオ!」
ミツオ「最後に…、ゆかりに会えて、よかっ…た」
ゆかり「嘘でしょう!?ミツオ~~~~~~~~~~~~~!」
ミツオ「お前、頑張…って、生きていけ…よ…」
ゆかり「うん、わかったから、わかったからまた会いたいよ…」
ミツオの亡骸の横で、しおれそうな気分になりながら、ゆかりは満開に咲いたのでした
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